二章

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 思わず、もふもふな両前足の付け根に手を入れて、びょーんと抱きあげ。  見た。 「お、こいつ。  ちっちゃいけど、一丁前についてんのな。オスじゃん」 『ち……ちっちゃいとは失敬な!  ……吾が気にしている事を簡単に言いおって!!」 「失礼なのは、お前もだろ!  誰が子狸だ……ってお前みたいなオスだかメスだか判んねえ生き物も、ソコ、気にするんだ?」 『え~~い!  うるさい!! 黙れ黙れ黙れ!!』  と、莫迦な会話をしている場合ではなかったのだ。  グバウツ!!  なんて。  紅蓮が今まで聞いたことのない音がしたかと思うと、つい、今。  可愛い銀の塊が飛び出して来た藪が、丸々消えた。 「……なんだこりゃ……」  じたばたと暴れる猫ウサギを庇って睨めば、藪の代わりに、現れたのは……球体の生き物だ。  直径が、紅蓮の腕の中に居る、猫ウサギの妖の十倍ぐらいある。  これもまた、銀色だった。巨大な球体がわずかに地面から空を浮いて、さまよっている。  そしてもう一度、グバウツ!! と言う音に、良く見ると。  球体が、花のつぼみが開くように展開し、触れた物を球の中に取り込んでゆく。  さっき、紅蓮の聞いた初めての音は、この妖が『くち』を大きく開き、 藪を飲み込む音だったのだ。  で。  この、口だけの球体が、本当に呑み込みたかったものは……この、何だか、耳の長い猫と、ウサギの中間のもふもふ(♂)!?  ふらり、ふらりと左右に、巨体をゆすり、思いだしたかのような変なタイミングで、ぐぐぐぐっと大迫力で近づいて来る球体は、誰が見ても怖い。  それでも、紅蓮は怯まなかった。  手に持っていた白銀色の塊を、ぽい、と後方に放り投げると、背中に負っていた大剣をひっこ抜く。  そして、そのまま、自分の背丈の倍はあろうかという大きな口に向かって、突っ込んだ。  だが、しかし。  紅蓮の剣は、口を閉じて球体になった妖の皮膚に、ギィンッという音とともに、跳ね返される。 「ちっ……! 堅ってぇ!」  紅蓮は、跳ね飛ばされた力を利用して、空中で一回転すると、泥の中にすたっ、とカッコ良く着地……しようとして、すべった。
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