一章

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   どこの腕自慢(バカ)が最初に始めたか、なんて判らない。  雨がしとしとと降り続く『梅雨』という季節は、まともに畑で農作業も出来ず。  陽が射さない日々が続くと、妖(あやかし)なんぞという、恐ろしい生物が森をうろついてて、狩りにも行けない。  勢い、そんな日は昔から『晴耕雨読(せいこううどく)』という言葉がある通り、落ち着いて本でも読むのが正解、なのだろうが。  東国(あずまこく)では、国民の半分ほどが文字を読めない上。書籍は高価で『読書』などと言う大層インテリじみた趣味を持っている者は、ごくわずかにしかいない。  読書に代わって、この国、この時期で、一般の人気は武芸大会だった。  何百人も観客が入る、大きなテントの中央の円形舞台で、一対一。  木か竹で出来た偽物の武器を使って、正々堂々互いの腕を競い合う。  最初は、雨に降り込められた近隣の村、二、三で行っていた勝負だったのだが。  こんな大会が大盛況のうちに、二十年続いた現在。 『梅雨入りから七日後』に、開催が定着した武芸大会は、東国を上げての一大イベントになっていた。
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