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がんがん怒鳴る、猫ウサギの声を完全無視して、背を向けて。
彼は、白銀の球体から目を離さず、つぶやくように言った。
「おい、クソジジィ! 出番だってさ!」
『?』
紅蓮の前には誰も居ない。
敵の白銀の球体を前にして一体何を言ってるのか。
猫ウサギが、怪訝そうに首を傾げた時だった。
紅蓮の背中から、鈴の音もかくや、と思われるほど玲瓏たる美声が響いた。
どうやら、声の主は、剣らしい。
そいつは、自分の主のはずの紅蓮にぶつぶつと文句を言いだした。
『……誰がクソジジィですか?
私(わたくし)をお使いになる際は、きちんと名を呼び、しかるべき手順をお踏みになり……』
「だ~~っ!
うるさい~~ めんどくさい~~
しかも、ゆっくりやってる、時間も無い!」
紅蓮は、焦れたように無理やり大剣の柄に手をかけ、再び抜こうとしたらしい。
けれども。
通常より大きな、ちょっと仰々しい剣は、ぱきっとやけに軽い音がしたかと思うと……
「あ、根本から、折れた」
ぱっきり、すっぱり、ぽっきり。
どうやら、さっき跳ね返された一撃が、致命傷だったらしい。
白銀の球体を目の前にして、ひらひらと、柄だけになった剣を振る紅蓮を見て、猫ウサギは怒鳴る。
『うぁ~~ 子狸、まさかの大ピンチ!?』
絶体絶命に、頭が煮えそうになったらしい。
叫ぶ猫ウサギの声をようやく聞いて、紅蓮が笑う。
「ん~~ そうでもないんだな」
紅蓮は刀身が折れ、柄だけになった剣を両手で構えると、泥に足を取られ、ずっこけそうになりながら、銀の球体に向かって突っ込んで行ったのだが。
大口が、特別大きな口を開いた。
グファッ!
『こ……子狸、戻れ!』
危ない! さがれ、のつもりで言ったらしい。
またもや、猫ウサギの声を無視して、紅蓮は声を張った。
「出て来い! 魔剣『鬼眼(きがん)』!!」
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