二章

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 がんがん怒鳴る、猫ウサギの声を完全無視して、背を向けて。  彼は、白銀の球体から目を離さず、つぶやくように言った。 「おい、クソジジィ! 出番だってさ!」 『?』  紅蓮の前には誰も居ない。  敵の白銀の球体を前にして一体何を言ってるのか。  猫ウサギが、怪訝そうに首を傾げた時だった。  紅蓮の背中から、鈴の音もかくや、と思われるほど玲瓏たる美声が響いた。  どうやら、声の主は、剣らしい。  そいつは、自分の主のはずの紅蓮にぶつぶつと文句を言いだした。 『……誰がクソジジィですか?  私(わたくし)をお使いになる際は、きちんと名を呼び、しかるべき手順をお踏みになり……』 「だ~~っ!  うるさい~~ めんどくさい~~  しかも、ゆっくりやってる、時間も無い!」  紅蓮は、焦れたように無理やり大剣の柄に手をかけ、再び抜こうとしたらしい。  けれども。  通常より大きな、ちょっと仰々しい剣は、ぱきっとやけに軽い音がしたかと思うと…… 「あ、根本から、折れた」  ぱっきり、すっぱり、ぽっきり。  どうやら、さっき跳ね返された一撃が、致命傷だったらしい。  白銀の球体を目の前にして、ひらひらと、柄だけになった剣を振る紅蓮を見て、猫ウサギは怒鳴る。 『うぁ~~ 子狸、まさかの大ピンチ!?』  絶体絶命に、頭が煮えそうになったらしい。  叫ぶ猫ウサギの声をようやく聞いて、紅蓮が笑う。 「ん~~ そうでもないんだな」  紅蓮は刀身が折れ、柄だけになった剣を両手で構えると、泥に足を取られ、ずっこけそうになりながら、銀の球体に向かって突っ込んで行ったのだが。  大口が、特別大きな口を開いた。  グファッ! 『こ……子狸、戻れ!』  危ない! さがれ、のつもりで言ったらしい。  またもや、猫ウサギの声を無視して、紅蓮は声を張った。 「出て来い! 魔剣『鬼眼(きがん)』!!」 
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