二章

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 ……けれども、柄からは、何も出なかった。  紅蓮の間合いの取り方から察するに、おそらく。  折れた刀身と同じくらいまでの長さ、幅の鬼眼とやらの刃が出る予定……だったのだろうが。  結局、折れた刀身は、折れたまま。  すかっ! と、銀の球体を空振りして、紅蓮はコケそうになった。 「こらぁ! クソジジィ! さっさと出て来い!」  バフッと閉じた大口を、なんとかかわして怒鳴れば、剣もまた文句を言いだした。 『もう、また!  面倒くさがって、鬼眼出現(ソコ)に至るまでの呪文を端折(はしょ)るからでしょう!』 「だって、最初から最後まで、ジジィ褒める美辞麗句ばっかじゃん!  毎回、そんなの聞きながらお出まし、なんて背中がかゆくならないか!?  こんの、ナルシスト!」 『ナ……ナルシスト、ですって!?』  よっぽど腹を立てたか、驚いた……らしい。  紅蓮の手の中にある刀身が根こそぎ折れた柄から、何のアクションも無く、唐突に。  巨人の片目をそのまま切りとって、刀身にしたような刃がぐいん、と出現したかと思うと。  ぱちっ、と瞼を開いてじろり、と紅蓮を睨んだ。  白銀の刀身一杯が白目で片刃の切れない方峰(みね)が丁度、瞼(まぶた)になる。  そして、刀身の白目の中なら、自由に動けるらしい漆黒の瞳。  気の弱い女なら、多分。  悲鳴を上げて腰を抜かしそうな巨大で、鋭い眼光をモノともせず、紅蓮は軽く笑う。 「ほら、やれば出来るじゃん!」  紅蓮の言い草に、剣は巨大な目を細めた。 『あなたが柄を持ってるから、なんとか出れただけです!  それでも威力は半減、一度に一つしか切れませんからね!』 「はいはい、上等、上等!」  紅蓮は、あくまで気負わず、ふぃ、と笑うと。  今まで忙しく、くるくる動いていた表情を、すっ、と戦う男の表情(かお)に変え。  着ていた重いみの、笠を放り出し、剣の構えも変えた。  相当、刀身は軽いらしい。  巨大な剣を軽々右手だけで持つと、まるで、剣士と言うより、ステージの上に立つ踊り手のように、優雅に、薄暗闇の森に降り立った。  紅蓮と銀の球体の大口。  もし、この戦いに、旅芸人の舞台のような名前をつけるとしたら『片羽の蝶と銀の花』。  そう、そんな名前がふさわしい。
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