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片羽と言っても、瀕死の蝶ではない。
しとしとと、雨の降る森の奥。
羽のように大きな魔剣鬼眼をひらり、ひらり、と操って、巨大な白銀の大口を仕留めに掛かる紅蓮の姿は、酷く美しかった。
それは、まるで巨大な死の花と戯れる、両羽揃った蝶のように。
重い装備を脱いだ紅蓮は、軽々と空を舞う。
大口の妖は、さすがに魔剣を持ってしても、適当に切った一太刀で、真っ二つになるシロモノではない。
剣を突き立てるのに最適な場所を探して大口と打ち合う、キィン、カィン、と鳴る音が、梅雨の静けさを引き立てていた。
そんな。
まるで、動く絵画のような。
美しい演劇の舞台のような光景を、猫ウサギは、呆然と眺めていた。
ついさっきまで、騒いでいた口に、一つの言葉も、声すら出なかった。
やがて、ほどなく。
一際大きな肉を断つ音が響いたかと思うと、花を真二つに切り裂いて来た蝶が、ふわり、と。
猫ウサギの傍らに舞い降りて来た。
降りしきる雨にすっかり打たれて、濡れそぼり。
「あーあ、デカくて、固かった~~」なんぞとつぶやきながら、水の滴る真紅の髪を掻きあげる紅蓮の様子を、猫ウサギが、じっと見あげてた。
どうやら、紅蓮から、目が離せなくなったらしい。
さっきの大騒ぎから、一転。
猫ウサギは、紅蓮を見つめたまま、ぼんやりとささやいた。
『子狸が、化けた……
……貴様は、とても……とても……キレイ、だ』
「そりゃ、どーも。
でも、外見褒められても、あんまし嬉しくないな」
『腕も、立つ』
「お、ちょっと嬉しいかも」
『……惚れた』
「は?」
「貴様、吾の嫁になれ』
「えっ!? ええええっ!?」
思いがけない事を言われて、紅蓮は、猫ウサギを見つめ返した。
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