二章

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 とか。  野生の妖なんだから、そりゃあ、気遣う人間は、いないだろうな、とか。  なんとなくの違和感を、感じ取ってはいたものの。  猫ウサギのあまりに寂しそうな……嬉しそうなその声に、紅蓮は無理に獣を引きはがす事をあきらめた。  その代わり。  しょうがないなぁ、と、紅蓮は笑って、肩をすくめる。 「……判った、判ったよ。  オレとお前って、まだ出会ったばっかりじゃん。  鬼眼以外で、ヒトの言葉をしゃべる妖と話をしたことも、これが初めてだし。  誰が誰の嫁になるとか、そんな話は置いといて、ちょっと二人で一緒に居てみよう」 『おお、それは世に言う『でーと』って言うヤツか!』 「うーん、ちょっと違う気が……」 『でーと♪ でーと♪』  どうやら、猫ウサギは、紅蓮の話を聞く気が無いようだった。  今の今まで、ぼたぼた涙を流していた、というのに、一変。  とても嬉しそうに、くるりくるくるとそこらをはね回る猫ウサギを見て、紅蓮は、ま、いいやと肩をすくめる。  それよりも…… 「は……っ、くっしゅっ!」  紅蓮は、くしゃみをして身を震わせた。  どうやら、これ以上冷たい雨に濡れっぱなしは、まずそうだ。  紅蓮は「うう」と息を吐くと、新しい旅の仲間に声をかけた。 「そろそろ、出発しよう。  目的のヤツってさ、去年武芸大会で戦っただけでほとんど初対面みたいな感じだし。  連絡も取りようが無かったから、突然訪問なんだ」  こんなに雨に濡れて汚れてる上、妖連れじゃ、泊めてくれないかもしれないし。  そもそも、留守かもしれない。  一度家に行って、日暮れ前に街に帰るなら、もう出かけないといけない。と。  大口戦で、散らばった荷物を回収しながらつぶやく紅蓮に、猫ウサギは笑った。 『この薄暗がりの森に住む人間は、限られている。  武芸大会の覇者、というのなら『柊』の家だろう?  それなら、大丈夫。  一泊と言わず、幾夜でも泊まって行けばいいし。  今晩は手持ちの中で、一番良い酒開けて、大宴会だ』 「……は? お前、柊と知り合い?  そいつん家知ってるの?」  突然、ワケの判らないことを言いだした猫ウサギに、紅蓮が怪訝そうに眉を寄せれば。  銀色の毛皮で、紅い目の妖は、とても上機嫌な顔で『もちろん』と言った。
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