三章

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 結構深刻なはずの話にしては、紅蓮の軽い相槌に、柊はちらりと睨むと、先程、宴の席で紅蓮に聞かせた話はずの話を、もう一度話した。  多分、最初は人型の妖を遊びで抱いて、気がついたのかもしれない。  交われば、ただ、子どもができるだけじゃない。  普通の人間よりも優秀な人材が生まれる可能性がある妖が、いることか判った。  以来、その妖は見つけ次第狩られ、そもそもあまりいなかったその妖は『保護』されたものの、今では純粋種が居なくなってしまったこと。  現在は、より妖に近い半妖がその役を担い。  そして、自分の子どもを産ませるのに、人間以下の『妖』では、体裁が悪いと感じた王侯貴族たちは、その妖を自分たちと同じく『高貴』で『気高い者』と称号を与え、神殿で暮らすよう義務づけたこと……  案外長くなった話に、柊が近づけば、紅蓮はその分じりじりと後ろに下がってゆく。  そんな風に、紅蓮はおっかなびっくり聞いていたのだが……  柊の説明の中に、聞き捨てならない話を見つけたらしい。  初めて『えっ!』と驚いた顔をして身を乗り出した。 「神殿!? 柊は、北国(ほっこく)神殿の……?」  何か、仰々しい言葉にようやく驚いたらしい。  紅蓮の高くあがった声に柊は肩をすくめた。 「巫女(みこ)、だ。  貴様、さっきの話、全く聞いて無かったろ」 「悪い」  どうやら真剣に聞く気になったらしい。  へらへらしていた紅蓮が真面目な表情をしたので、とりあえず許す気になった柊は、話を続けた。 「……巫女と言っても、そう大したもんじゃない。  巫女は男女関係なく昔の繁殖用の妖の特性を色濃く受け継いじまった、運の悪いヤツの総称に過ぎないし。  ……神殿、なんてただの金持ちや支配階級用の娼館だ」  柊は、そう言うと、心底嫌そうに唾を吐いた。 「優秀な次の世代……子どもを作るため、とかで。  より強く、より美しくを求められ。  武芸込みの、辛い修行で散々身体を鍛練したのに、実際に使うのは性器と腰の振り方だけだって? 冗談じゃねえ。  しかも、神殿から出られる条件は、たった一つ。  俺達を管理する神官長が決めた、誰とも知らねぇクソ高慢ちきな支配階級野郎との間に、子どもが出来た時だけだって?  ふざけんな!」  柊は、怒った獣のようにぐるぐると喉を鳴らした。
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