三章

7/29
前へ
/125ページ
次へ
「ああ、俺が招いて連れてくればこそ。  妖の出る森に、わざわざ一人でやって来るほど根性のある奴ってそうは居ないからな。  発情期になって妙なフェロモンをブチまいたとしても、ここまで俺を抱きに押しかける男はまず、いない」  最近ようやく、発情抑制剤を自分で調合する事が出来るようになったものの。  それを使うと、今度は、妖の部分が表に出て来て、今日貴様に出会った猫とウサギの中間みたいな無力な生物になりかわってしまう。  どちらにしろ、発情期中は、心か、姿のどちらかを妖に乗っ取られることになり……これでは、まともな生活が、送れない。  そう。柊は訴えた。 「……それは……本当に大変なことだと思うよ。  発情期かあ。  それが無くなるか、少しでも楽になったら、柊もまあ、普通に暮らせるんだろ?  なんとか、ならないものなのか?」  一度、身を乗り出したせいで、柊との距離が近い。  さっき、たっぷりとした湯の湧きだす温泉に順番に入り、体臭どころか、どんな匂いも洗い流したはずなのに。  ふわり、と漂う花の香りを柊から感じて紅蓮の胸が、ドキリ、と大きな音を立てる。  胸が、締め付けられる……?  なぜ、男相手にこんな気分にならなくてはいけないのか……?  ……それは、柊が元々繁殖用の妖の上、今が発情期中だから。  説明は、二度もされたのに、紅蓮自身が『本当はどういうコトなのか』実感として、受け入れられなかった。  ただ、柊が近づくと湧き上がるやるせない思いに、驚いて。  広々とした、ベッドの上を、また。じりじりと、逃げ出しにかかろうとする、紅蓮に、柊がぼつり、と言った。 「……ある。多分、たった一つだけ」 「それは……なんだ?」 「……より早く、つがい、を見つけることだ。  つがいさえいれば、気持ちがそいつに向く分だけ、他のヤツらを誘わなくなる。  関係ない周りの人間を色ごとに巻き込む、おかしなフェロモンも出さなくなるようだし。  発情期も少しはまし、になるはずなのだ」 「つがい? なんだそりゃ?」
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1317人が本棚に入れています
本棚に追加