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スッと引かれる引き戸。 その先の光景に、少女は切れて僅かな痛みを与えていた唇に落胆の色を滲ませる。 戸口でコツリと硬い音を立てて少女を見下ろす音の主。 少女は力なく上げていた視線を下げた。 視線の先に映る黒光りしている冷酷な靴。 どうして気が付かなかったのか、この日本に硬い靴音を立てながら家の中を歩き回る者などそうはいない。 もう少女には、その愛らしい瞳を濡らす涙さえ出なかった。 脱力するように、擦り切れた畳に突っ伏す。 そんな少女の様子に、音の主は変わらず黒光りした硬い靴底で畳間に足を踏み入れた。 畳に倒れるようにしている少女の横に、無造作に放り出されたランドセル。 散らかった教科書やノートには、少女の名と学年が書かれていた。 音の主は、低く唸るような声で少女に声をかけた。 「……サエ……お前を買った…」 その言葉の意味を理解する前に、少女は意識を手放していた。
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