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「お礼に…」とけいちゃんは館内のロビーで、あたしにジュースを奢ってくれた。なんでもいいよ、って言うから、紙パックのコーヒー牛乳を選んだら、物凄くビミョーな顔してたけど。その理由は、あとでいやというほど思い知る。
けいちゃんは玉露入り緑茶を選んで、それを飲みながら、ちょっとだけ話をした。名前とか年齢とか、近くの大学の史学科の学生さんだってのも、その時に知る。
「風邪引いてるんですか?」
そう聞いたら、恥ずかしそうに頭を掻きながらけいちゃんは言う。
「俺、埃アレルギーぽいんだよね。図書館とか古本屋とか、体育館の倉庫とか。くしゃみ止まらなくなっちゃうの。いつもマスクとティッシュは持ってるんだけど、今日はたまたま忘れちゃって。だから、助かっちゃった」
その時はお互いの飲み物が空になったらバイバイした。
イケメンなのに、埃アレルギーでくしゃみの止まらない、ちょっと残念なお兄さん。けいちゃんはあたしの中で、そんなイメージで記憶に残る。印象は強烈だったから、次にまた図書館で会った時には、思わず声を掛けてしまった。
「遠藤さん…ですよね」
その時はしっかりマスクで完全武装だったけいちゃんは、あたしの顔を見て、マスクを外す。
「あ、ああ。千帆ちゃんだよね」
名前を覚えててくれたことより、いきなりちゃんづけで呼ばれたことに驚いた。
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