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悲しくて、涙がぼろぼろこぼれてきた。こんな曖昧な関係で、こんなどさくさまぎれに。あたしの思い描いてたシチュエーションと天と地ほど違う。
「え、もしかして初めてだった?」
あたしの涙に気づいて、けいちゃんが慌てて言う。あたしは大きく首を縦に振った。
「もしかして嫌だった?」
「嫌っていうか…、可愛かったから、なんて理由で簡単に女の子にちゅーしちゃうけいちゃんが信じられない。誰にでもするんですか、こんなこと」
あたしは激しくけいちゃんを詰る。
「誰にでもなんてしないよ」
いつもはほわほわと喋るけいちゃんが、力強く断言する。その凛々しさに一瞬キュンとなったのも束の間。
「千帆が好きだから…って、俺、言ってなかったっけ?」
けいちゃんは、自分で首を傾げながら、あたしに訊いてくる。何この脱力感。
今度はあたしは、ぶんぶん首を横に振った。聞いてない聞いてない。
「え、だって、一緒に映画見に行ったり、今もこうしてドライブ行こうとしてるんだし…俺の気持ち、わかってたでしょ?」
続く質問もあたしは首を横に振る。あたし、そんなに自惚れてません、けいちゃん。
「あー、そうなんだ。じゃあ、付き合ってるつもりでいたの、俺だけ?」
「うん」
「そっかあ」
けいちゃんは、ふうと大きく溜息をついて、ハンドルに両手を組んで載せる。その腕に顔を置いて、助手席のあたしの方を見た。
あ、なんか反則、その縋ってくる子犬みたいな目。
けいちゃんに怒ってるのか、どさくさまぎれに暴露された思いが嬉しいのかわかんないまま、あたしはドキッとなってしまう。
「でも千帆は俺のこと好きでしょ?」
自信たっぷりにけいちゃんは言う。何処から来るんだろう、その余裕。顔の良さか、年の功か。
「好き…だけどっ」
言わされた感満載の告白に、けいちゃんは万事解決、みたいに満足気に言う。
「じゃあいいじゃん、付き合ってる、ってことで」
「え?え?え?」
なんかすっごい損した気分。告白した? された? されたの? 私。
「よろしくね、千帆」
けいちゃんは、アイドル並みの爽やかなスマイルをあたしに向けた。
「えーーーー」
肝心なとこ、すっぽかされて、あたしは思い切り不満で、口を尖らせた。
好きな人から、告白される。どきどきの一大イベントが、超おざなりにされたまま、事態だけが進行しようとしてる。こんなの、やだ。
「ダメ?」
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