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授業が始まった。1限目は日本史。得意な教科のひとつだ。
茜はじっとこちらを見ている。
「どした?」「私急な転校で教科書ないの。」
「了解」と言って机をくっつけようとしたとき、思い出してしまった。
俺の教科書には素晴らしい落書きがしてある。特に人物画には改心の一撃をこめている。前世では確か茜が頼朝と政子を見て大爆笑し、廊下に正座だったよな…。
「どうしたの?見せるの嫌なのかな?」表情がみるみるうちに暗くなる。
「嫌じゃないんだ。凄惨な落書きがしてあるんだ。たぶん見たら惨憺たることになる。
そうだ、めぐみ、めぐみ。」俺は前の席のめぐみに声をかける。
「何?」
「荻ちゃん教科書ないみたいなんだ。俺の見せるわけにはいかんから貸してあげてくれないか?」
「確かに裕くんの見たら悲惨だわ。」
「えっ、そんなになの?後で見せてよ。」
楽しそうに言う茜。暗さがとれてきたかな。
担任の説明する声、黒板にかかれる音、ノートをとる音しか聞こえない教室。時代は源平の合戦だ。
そして、頼朝登場。烏帽子はモヒカン、日章旗のはちまきを額に巻いて、蓄えた髭。
キン○マンのサンシ○インのごとく「フォッフォッフォッ」と笑う頼朝。
隣では、尼装束のバックに阿修羅を従え、どこで焼いたのか、ガングロに日焼けし、女性なのに伸びた髭をジョーリジョーリと触りながら軽快に笑う北条政子が…。
「クッ、ププッ」や、やばい、改心の落書きに思わず吹き出すとこだったぜ。
なんとか気持ちを落ち着かせ、ノートに向かったときに事件は起きてしまった。
「プププッ。アッハハハ、もうだめ、何よこれ、あー、可笑しい。」
茜がいきなりの大笑いを始めた。
俺は右利きだから、教科書を机の左側に置いている。俺の吹き出しを見て覗き見をしたらしい。愚か者め。
「あっ、」と言っても時すでに遅し。クラスの注目を一身に浴びてしまった。
「なーにがそんなに可笑しいのだぁ?」
前世と全く同じだ。指をポキポキならしながら向かってくる阿修羅を従えたケン○ロウ。
「あのぉー、そのぉー、えっとぉー…。」初めて受ける担任の威圧感に圧倒される茜。
盗み見したのは悪いんだろうが、俺のせいでもあるな、許せ茜。成仏してくれ。
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