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「その方が宜しいでしょう」
後ろから声をかけられて彼は目だけ動かした。暗がりにいる人物は声から男だと知れた。それ以上は闇が味方して彼には見えない。
「お知り合いですか」
「知り合いとは」
「お楽しみだった相手の女の事ですよ」
「いや、そのつもりはない」
「了解しました」
人影はいくつもの影に分散する。
影たちは慎が来た方向を下り、間を空かず女の悲鳴が聞こえた。
「何をした」
慎は声がする方へ顔を向けて訊く。
「あなた様が気にかけることはありません。いえ、少しばかり自分の島で出過ぎたことをしてくれましたのでね、仕置きをしています」
「自分の、島?」
「古今東西、女がする仕事といえばおわかりでしょう?」
「商売女には見えなかったが」
ふふふとくぐもった笑いが彼に答えを与えた。
「ここでの掟を決めるのは私、あなた様ではありません。今後、関わりは持たないことです」声は闇に消えた。
「本当に次はなくなったわけだな」
一口吸っただけの煙草を路上に落とし、彼、尾上慎(おがみ しん)は白けた気分ごと踵で踏み潰した。
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