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また、この夢――。
私は涙で濡れた頬を
手の甲で拭った。
信の夢を見るたび、
胸が締め付けられる。
いつまでも
未練がましい自分が、
惨めでたまらない。
私は、ここから前に進める日が
来るのだろうか。
私は、そんな不安を
振り切るように身を起こすと、
まるで鈍器で殴られたような頭痛がして、
またベッドに身を伏せた。
昨日、飲みすぎた。
と、思った次の瞬間、
えっ?!
裸の自分と、
そばの男の背中に、
愕然とする。
信?
まさか。
信とは別れて一ヵ月。
信じゃない。
信の背中じゃない。
静かな寝息。
私は恐る恐る
背中越し覗きこんだ。
この髪、
この横顔
うわっ!
き、桐野!?
・・・・全身の力が抜けた。
改めて昨夜の記憶をたどろうにも
動悸がして、うまく思い出せない。
まずは冷静になろうと、
ぎゅっと目を閉じ、
意識して呼吸を整える。
なんで私、桐野と……
桐野は、信と同じロックバンド
Beatsのメンバーだった。
桐野とは、
たまに信について行ったスタジオで
会うぐらいだったけど、
会う度に、いつも憎まれ口を言ってきて、
正直、私は苦手なタイプだった。
なのに……っ!
とりあえず、
この姿では顔も合わせられない。
桐野が起きないうちに、
何か着なきゃ……
私は背中越し桐野の寝息を確認し、
起こさないよう気遣いながら、
抜け出すように
ベッドから立ち上がりかけた。
『!!』
腕を、捕まれた。
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