夢と現実

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『…はよ。』 かすれた桐野の声。 『お…おはよ。』 私は、桐野に 背を向けたたまま答えた。 『今、何時?』 『うーん…8時過ぎかな』 『そ…っ』 素っ気ない桐野の返事。 それで納得したのか、 掴まれた私の腕は、 するりと放された。 私は桐野に背を向け、 中途半端な体勢のまま、 どうしたものかと、固まっていた。 桐野は、 それっきり無言だった。 また、眠ったんだ。 だったら・・・と、 私は、おずおずと ベッドから抜け出そうとしていると、 『やだ。……ここにいて。』 さっきより強く腕を捕まれ、 ぐっと、引き寄せられた。 『へっ?ヤダって・・・』 桐野の意外な言葉に、 私は、苦笑しながら ベッドの桐野を振り返った。 ふざけてると思った桐野は、 笑っていなかった。 まっすぐ向けられた桐野の瞳。 初めて見る桐野だった。 とくん──。 痛いくらい、胸が深く鳴った。
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