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少し落ち着いてくると、
この想像もできない場面が、
やたら恥ずかしくなってきた。
『ね、桐野。何か、話して……』
平気ぶって、
桐野に話しかける。
『 沙樹が、……話して。』
思わぬ呼び捨てで名前を呼ばれ、
胸が、きゅっとなる。
多分、初めて呼ばれた……
私は、そんな動揺も誤魔化そうと、
咄嗟に浮かんだことを口にした。
『あ、あの!…昨日って?』
『え?覚えてない?』
『いや、あの……。』
『沙樹、すっげぇ激しすぎ!
俺、ヤバかったし。』
『なっ……!!』
桐野は、笑いながら
冗談っぽく言った。
でも、私は、それが
冗談じゃないことは感じていた。
誰かの唇を、激しく貪った感触が、
口廻りに残っていて、
恥ずかしさで、思わず手で口を覆った。
桐野は、クスッと笑って、
小さく肩を揺らした。
そして指先で、
私の前髪を軽く触れながら、
『さっき、泣いてたろ?』
『えっ・・・』
『信、か。』
『・・・・。』
『俺、謝んないからな』
『・・・あやまる?』
『沙樹を抱いたこと。
謝るつもりないから。
まだ、沙樹ん中に、
信がいるのは分かってる。
だけど… だけど俺、
昨日みたいな沙樹、
ほっとけねぇ……』
そう言って桐野は、
覆いかぶさるように、
私の肩に顔を埋め、
私を 強く抱き締めた。
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