夢と現実

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桐野の言う昨日みたいな私・・が、 気にはなったが、 それよりも、 桐野に、強く抱き締められて、 まるで何処か彷徨い続けていた私を 捕まえてもらえたようで、 不思議と、ほっとした気持ちになっていた。 私は、桐野の腕の中で、 目を閉じた。 包まれてると、 こんなに安心なんだ・・・ 私は、安心感にほだされて、 桐野の腕に手を掛けると、 桐野は腕の力が緩め、顔を上げた。 そして、 私の唇に、やわらかな感触。 桐野の唇が触れた。 桐野の唇は、 私の唇の端から小さく触れていき、 端までいくと、 私の唇全部を 大きく、優しく覆う・・・・ 私の唇が、 ゆっくり、 しっとり、 桐野の唇のやわらかいところで 包まれ、 濡らされていく・・・ 身体中に熱が巡っていった。 私は巡ってくる熱に促されて、 桐野の背中に両腕を回すと、 ふいに、 あの夜の信の背中が、脳裏に蘇った。 ズン… 鈍い痛みが胸を突く――。 思わず、私は顔を歪め、 桐野の背中から腕を降ろした。 私の様子を感じとった桐野は、 唇を離した。 目を開けると、 どうした?問う桐野の瞳が間近に。 私は、桐野の瞳を遮って また目を閉じ、 『・・・ごめん』 それだけ言うのが 精いっぱいだった。 桐野は、何も言わず、 また私を強く抱き締めた。    
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