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どれくらいの時間
抱き締められていたのだろう。
ためらう気持ちもありながらも、
抱き締められることで
安心感に満たされていく心地よさから
私は桐野に身を委ねたままでいた。
でも、これって、
ただ桐野の優しさに甘えてるだけだ…
『ねぇ、桐野』
『……ん?』
桐野は、私を抱き締めたまま、
小さく返事をした。
『コーヒーでも入れよっか。』
『え?』
『コーヒー、飲も。』
『あ、あぁ。』
桐野の表情は見なかったが、
少し沈んだ声だった。
桐野は、腕を私からほどき、
少し、身を引いた。
私は、スッと身を起こして
そばの椅子にあった
ハーフケットを肩から掛け、
ベットを出た。
ベット下に散乱した洋服をかき集め、
寝室のドアノブに手を掛けた時、
『沙樹。』
呼び止められた。
『うん?』
『濃いめな、コーヒー』
ベッドを振り返ると、
やわらかい表情の桐野だった。
『うん』
私は静かにドアを閉めた。
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