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「馬鹿なこと言わないでよー。 今いる時代が幕末? タイムスリップしたって言うの? そんなの、現実的じゃないよ」
あはは、と私は笑い飛ばした。
大体、まこちゃんらしくない。 こんな真面目な場面で冗談を言うなんて…。
そんな私を見て、まこちゃんは「はぁ…」と溜め息を吐いた。
「馬鹿なことなんかじゃない。 俺達は本当にタイムスリップしたみたいなんだ」
「はぁ? そんな証拠、どこにあるの?」
「さっきの町の人達の姿、見ただろ? 着物着てた。 こんなに暑い中、着物を…しかも、あんなにたくさんの人が着るなんて有り得ないだろ?
それに、町の人々に"壬生狼"と呼ばれていた人達…あの呼ばれ方とだんだらの羽織は、間違いなく新撰組だ」
感心してしまう。
私は…その人の目を惹く容姿に気を取られ、格好なんて良く見ていなかった。
幕末好きのまこちゃんが言うのだから、ここは幕末に違いないのだろう。
だけれど…どうしても認めたくない私がいる。
そんなこと有り得ないと…思わず反発してしまう。
「でも、もしかしたら映画とかドラマとかの撮影かめしれないよ?」
「あそこにカメラ、あったか? それに、何の事情も聞かされてない俺らを入れて撮影するか?普通」
「…ど、ドッキリかもしれないじゃん!」
そうだよ、きっとこれは何かのテレビ番組のドッキリなんだよ!
初々しい私達の反応を見て、きっと楽しんでるに違いない!
そう結論付けたが、まこちゃんは納得してないようで…
「いやいや、これは絶対にタイムスリップしちまったパターンだぜ!?」
と、わたしの肩を掴み、必死に言ってきた。
まこちゃんの顔は幼い頃から見てきてるけれど…相変わらず綺麗な顔をしている。
真っ黒で少し釣り上がった綺麗な目。 女子が騒ぐのも、納得するわぁ。
…と、そんな呑気なことを考えてる余裕はなかった。
「そんなに信じらんねぇなら、町、散策するか? 帰り道も探さねぇとだしな」
まこちゃんはまた、さっきと同じように手を引いて歩き出す。
…このとき、わたしはまだ知らなかった。
これから起こるたくさんの出来事。
これから出会う、"出逢うはずがなかった人達"に。
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