第1章

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「まぁ、カズマの素行はカッコよくなかっただろうから、あきらめなよ。」 「う…。」 「あははは!」 思い切り笑って、お腹いっぱい食べて、飲んで…。 帰りはまたカズマが送ると言ってくれたけれど、なんだか落ち着かないから断った。 次の日は仕事へ行って、ミユキを口実にしたことを説明して謝った。 「少年の悪知恵にはムカつくけど、一華が助けられたなら見逃してやろう。」 なんて言っていたけれど。 出張が忙しいのか、ケイトくんから連絡はなかったけれど、これからのことについてゆっくり考える時間があって、良かったと思う。 とはいえ、1週間も連絡がないのは少し心配になって、メールを送ったけれど返信はない。 気にはなるけど、どこへ行ったのかもわからないし、待つしかない。 仕事を終えて、今日は家でのんびりしようとくつろいでいると、ケータイが鳴った。 「もしもし?」 『一華?』 「1週間も連絡ないから、心配したよ。」 『ははは、ごめんね。 今日、家に居る?』 「うん。」 『これから行くから。』 「わかったよ。」 …一緒に暮らしていると思っていたけど、‘帰る’じゃなく、‘行く’っていうのは、前からの名残なのかなぁ。 15分も経たないうちに、チャイムが鳴る。 鍵を持っていないのかな? 私が家に居るからチャイムを鳴らしたのか。 「おかえりなさい。」 「た、ただいま。」 そう笑った顔はなんだか疲れているみたい。 「荷物は?」 スーツ姿だけど、いつもの鞄は持っているものの、出張へ行ってきたような荷物はない。 「あのさ、話があるんだ。」 「…うん。」 こういう時に、嫌な予感しかしないのはなぜだろう。 テーブルを挟んで向かい合って座る。 しばらくの沈黙の後に、ケイトくんの口から出た言葉が、すぐには理解できなかった。 本当は、泣いてわめいても良かったのかもしれない。
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