第1章

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仕事を終えて、ケータイに着信がないことを確認する。 それから、早歩きで商店街を抜ける。 行き先はいつもの居酒屋。 「こんばんはー!」 ガラリと戸を開けると、店の大将が笑顔で迎えてくれる。 「ハナちゃん。 いらっしゃい。」 「ただいまー。 今日も疲れたー! ビールお願いします。」 「はいよ。」 返事を聞くか聞かないかのうちに、奥の個室へと向かう。 お店はそんなに広くはないけれど、カウンター席と4人掛けのテーブルが2つ、あとは個室が2つある。 そしてそのうちのひとつの個室には…。 「ハナさん、お疲れさま。」 黒色の短髪で、スッと切れ長の目力の強い青年が、日本酒を飲みながら笑みを向けてくれる。 「翔太もお疲れさま。 カズマは?」 「手伝いしてるよ。」 「そっか。」 座ってまもなく、 「ハナちゃん、お帰り。」 カズマがビールを運んできた。 金に近い茶色の髪は、くるくるふわふわしていて、パッチリ二重で、世の中的には可愛らしいと言われるのだろう。 「ありがと。」 ビールを受け取ったのに、カズマはそのままサンダルを脱いで私の向かいに座った。 「え?手伝わないの?」 「休憩。 朝から立ちっぱなしだから、ちょっと休みたい。」 「ふーん? 翔太、かんぱーい。」 ビールのグラスを軽く持ち上げて、ぐぴぐぴ飲む。 「あ~! おいしい!」 「でしょ? オレ注ぐのうまい?」 「うまくなきゃ、困る。」 「ハナちゃん、厳しいなぁ。」 そう言いながら、テーブルに置いてあったビールを飲んでいる。 仕事帰りには必ずここに寄る。 翔太は商店街の魚屋さんの息子で、翔太と同級生で幼なじみのカズマは、この居酒屋の大将の息子だ。 といっても、カズマの本業は駅前の美容室の美容師さん。 人手不足なのか、飲みながらもお店の手伝いをしている。 …そこは、偉いけど。
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