第1章

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「ハナちゃん、ご飯食べてる?」 「いま、食べてるじゃん。」 「それ、ビールだし。 焼き魚と煮魚どっちがいい?」 困った顔のカズマは、いつも私のご飯の心配をしてくれる。 「翔太のとこの魚?」 翔太を見ると、ニコニコしながら、 「今日は、サンマの塩焼きがオススメだよ。」 「じゃあ、それ。」 「了解。」 カズマが調理場へ向かった。 「カズマじゃくても、心配するよ。」 「えー? 大丈夫だよ。」 「…細すぎ。」 翔太が私の手首を掴む。 「大将のご飯おいしすぎて、太ったんだけど。」 「ハナさんなら、片手で抱えられるよ。」 「翔太は力持ちだもん。」 翔太の家は、早くにお父さんを亡くしている。 お店はお母さんと翔太で頑張っていて、中3と高3の弟の面倒もみている。 若いのにしっかり者で、優しくて、本当にいい子。 翔太の肩や腕をペタペタ触る。 「なにしてんのー?」 カズマが戻ってきて、ジトッと睨んでくる。 「カズマには無いものだもん。」 「は?」 「翔太、筋肉しっかりで頼もしい。」 「あのさー、 オレもそれなりに…。」 ズイッと近づいてくる。 「ビール、お代わりお願い。」 「…はいはい。」 なんとか撃退して、ひと息つく。 カズマは悪い子じゃないけど女慣れしていて、そのノリで近づかれるのは面倒だ。 カズマも翔太も優しいけれど、‘そういう’対象には思えない。 と、いうか…。 私にはお付き合いしている‘彼’がいる。 「ハナちゃん、お待たせ~!」 カズマがお代わりのビールと一緒に、サンマの塩焼きとお味噌汁とご飯のセットを運んできてくれた。 「おいしそう! ありがとう。」 「召し上がれ。」 向かいに座って、ビールの残りを飲んでいる。 「いただきます。」 両手を合わせて、お箸を掴む。 「おいしい~!」 「でしょ? 愛情込めて焼いたから。」
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