第1章

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「はいはい。」 パクパク食べると、なぜか二人は喜ぶ。 心配しすぎなんだけどなぁ。 「ハナさん、最近は仕事忙しいの?」 「ううん。 イベントもそんなにないし、通常営業かなぁ。」 洋菓子店で働いて、もう9年になる。 すっかりベテランになってしまった。 入社当時は嬉しかった、フリフリレースのエプロンもなんだか少し気後れする。 バレンタインや、クリスマスは、目が回るほど忙しいけれど、春が近づく今の時期はそれほどでもない。 「そうなんだ。」 「翔太は?」 「まぁ、ぼちぼち?」 「オレにも聞いて、オレにも。」 「はいはい、カズマは?」 「予約いっぱいもらってるよ! ハナちゃん、なんで来てくれないの?」 「私は髪切らないもん。 染めないし。用事無いもの。」 そう言うと、向かいからカズマの手が伸びてくる。 優しく私の髪をひと房掴む。 「そうだよね。 キレイだからもったいない。」 「なっ、なに言ってんの。」 後ろに身体を退く。 どれだけ慣れているのか知らないけど、そういうことをする相手は、選んで欲しい。 「俺そろそろ帰るかな。 明日も早いし。」 翔太が立ち上がる。 「じゃーな。」 「帰り気をつけてね。 またね。」 「ん、また明日。」 …また明日、当たり前のように会えることに、温かい気持ちになる。 翔太の後ろ姿を見送る。 「カズマはご飯食べたの?」 「うん。 帰ってすぐに食べた。」 「そっか。」 「あ! 明日は待ってる。 一緒に食べよう。」 「いやいやいや、そういうことじゃないから。」 「え?違うの?」 怪訝そうな表情だけど、なんでそんなに優しいかなー。 私の方が照れくさい。 「仕事、掛け持ちしてるようなものなんだから、ちゃんと食べて休んでね。」 「ありがと。心配してもらえるなんて嬉しい。」 この素直さが、時々羨ましくなる。
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