第8章

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「…。」 「今さら、そんな言い訳みたいなことを思って、情けないって。」 「そんなことないよ。」 「あるよ。 決めたのは、俺。」 「確かに、決めたのは翔太だけど。 18歳の翔太だよ? まだ子どもだったんだよ。 だけど、悩んで迷って、がんばって決めたんだと思う。 でも、今はまた違う迷いや悩みがあったって、それは当たり前のことだよ?」 「…。」 「決めたことを貫くのは大切だけど、大変なことだよ。 それに、投げ出すわけじゃないんだよ?」 「え?」 「例えば、ホントに弟にお店を任せるとしても、翔太が守ってきたものを、受け渡すってことだよ? すごいことだよ!」 「…。」 「翔太が背負うって覚悟して、続けてることは、商店街のみんなもわかってくれてるよ。 それは、尊敬することで、それ以外なんてない。」 「ハナさん。」 「自信持って大丈夫だよ。 翔太が決めたことを、応援するよ。」 翔太の瞳から、ポタリと涙が落ちた。 「うわ!」 翔太はそう言って、焦って立ち上がると、背を向けた。 豪快にティッシュを引き抜いて、思い切り鼻をかんでいる。 見守るとか、応援するくらいしか、力にはなれないけれど、翔太が目指すところへ辿り着けるといいな。 「食べよう? ご飯、冷めちゃうよ。」 「うん。」 振り向いた目に、もう涙はないけれど、代わりに優しい笑顔になっていた。 ご飯を食べ終わる頃に、翔太が呟くように言う。 「最近なんか、しっくりこなくて。」 「うん?」 「引き留めなかったこと、後悔もしてんのかも。」 「…ゆきちゃんのこと?」 「ん。 でも、今でも好きとかそういうのとは、ちょっと違う。」 「?」 「ずーっと、大事にしてきたから。 手離した、戸惑いなのかな。」 「…。」 「弟たちも受験が迫ってて、ちょっと余裕がないんだと思う。」
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