第8章

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「…。」 「そういうときこそ、俺がグラグラしてちゃダメなんだけどな。」 ハハハ、と笑った。 「…私は安心したかも。」 「え?」 「翔太は落ち着きすぎなんだもん。 そっちの方が心配だよ。」 「えええ?」 「ゆきちゃんのことだって、別にいらないから手離したとか、嫌いになって別れたわけじゃないんでしょ? お互いのこととか、先のこととか考えたんじゃないの?」 「そりゃ、考えるよ。」 「別々の道に進む、か。」 私はどこへ向かっているのだろう。 自分の進むべき道は、ちっとも見えない。 「ハナさんは?」 「へ?」 「やりたいこととか、あるの?」 「ないよ。」 「まさかの即答?」 「うん。」 「小さい頃の夢とかは?」 「…。」 夢、か。 なんだったかな。 「忘れちゃった。」 「思い出したら、教えてよ?」 「思い出したらね。 さぁて、ちょっとカズマの様子見てこようかな。」 「頼むね。」 「了解。」 食べ終えた食器をシンクへ運んでから、階段をあがる。 カズマの部屋をのぞくと、規則正しい寝息が聞こえる。 咳も大丈夫そうで、ホッとする。 積もりに積もった疲れを、癒しているようにも見える。 起こしては悪いから、そのまま居間に戻る。 台所では、翔太が洗い物をしているから、隣に並んで布巾を手に取る。 「ありがと。」 「いえいえ。」 洗い終えた食器を、カゴから取り出して拭く。 「寝てた?」 「うん。 試験勉強しながら、イベントの準備もあったもんね。」 「確かに。」 「カズマの商店街愛はすさまじいね?」 「ハナさんが、商店街好きって言ったからでしょ?」 「へ?」 思いもよらぬ言葉に、瞬きを忘れて翔太を見る。 「カズマが今よりバカだった頃は、 こんな小さい街、出てってやる。 って、言ってた。」 「あー…。」
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