第8章

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そう言いたい気持ちを、ぐっとこらえる。 そんなことは、私が言わなくったって、カズマは充分わかっていると思う。 「ハナちゃん、ご飯食べた?」 「うん、食べたよ。 私のことは心配しなくていいから。」 「えー、それは無理。 ハナちゃんのこと考えるのは、日課だから。」 「日課って…。」 カズマはズリズリと布団の中に戻ったかと思ったら、スッと手を出した。 「手、つないで?」 「…うん。」 ソッと、指を滑りこませる。 手も熱いな。 「ハナちゃんの手冷たくてきもちいい。」 「そう?」 「でも、いつもこんなに冷たいの?」 「うん。」 「じゃあ、いつもオレが温めるね。」 「えー?」 「だけど、今日はやめとく。 ありがと。 早く部屋に戻って休んでね。」 手が離れた。 それがさみしくて、つい、 「…添い寝すると早く治るんだって。」 「へ?」 間の抜けたカズマの声。 私も、なにを言ってるんだろう。 根拠なんてないし、そもそも誰もそんなこと言ってない。 ただの私の作り話。 「なーんて、」 嘘。 そう言い直そうと思ったのに。 「じゃあしてよ? 添い寝。」 甘えたようなカズマの言葉に、背筋がゾクリとした。 言い出したのは私だけど、そう答えられるとなんだか恥ずかしい。 「なーんて…。」 「…嘘なの?」 試されてるってわかってるのに、後には引けなくなってくる。 「カズマが寝るまでね?」 「うん。 でも寒いから毛布羽織って?」 布団の一番上に乗っている毛布を、ズズズと引っ張っている。 「ありがと。」 「あ、あとマスク忘れてる!」 「持ってくる。」 「…持ってくるついでに、やっぱ部屋で休みなよ。」 「やだ。」 戸惑うカズマをムシして、部屋に戻って慌ててマスクをつかんで戻る。 なんのつもりか、頭まで布団をかぶっているけれど、スッと飛び出ている手をそっと掴む。
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