第8章

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私ちょっと変態になったかもしれない。 だけど。 ドキドキするけれど、すごくホッとできるこの場所に、ずっといられたらいいのに。 ふと、そんなことを願ってしまった。 カズマが苦しんでいるのに、不謹慎だよね。 温かくて心地よくて、ゆっくりと眠りに落ちた。 ふと、目を覚ますと、部屋の中はまだ薄暗くて、カズマはスヤスヤ寝息をたてている。 そっと布団から出て、下へ降りると台所には翔太がいた。 「おはよ。」 「ハナさん。おはよう。」 「いつもありがと。」 「うん。 一応、雑炊作っておいたから、あとでカズマと一緒に食べて?」 「ありがとう。」 「病院の名前と住所と、場所を簡単に書いておいたから、あとはよろしく。」 メモを受けとる。 「わかった。」 「それじゃ、俺行くから。」 「いってらっしゃい。 気をつけて、がんばって。」 「ありがと。 いってきます。」 玄関で翔太を見送る。 カズマの部屋に戻ると、 「ハナちゃん?」 ぼんやりした声で呼ばれた。 「起こしちゃった?」 「ううん。 いなくなっちゃったと思って。」 「ふふふ。」 「仕事?」 「おやすみだよ。 あとで病院行こうね。」 「ん。」 起きているのか、寝ぼけているのかわからないけれど、気の抜けた姿が、私だけの特権のようでドキドキする。 カズマはカズマが思っているより、ずっとずっと頼れる存在になっている。 私にとっても、きっと商店街の人たちにとっても。 頼られることも増える代わりに、気の抜けないことも増えていると思う。 だから、家にいる時は…。 少し欲張ると、私といる時は気の抜ける時間であって欲しいと願ってしまう。 その為には、私がしっかりしなきゃ。 寝ぼけていると思っていたのに、しっかり腕をつかまれて布団の中に舞い戻る。 もう一度、目を閉じた。
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