第8章

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「ただいまー…って、ハナちゃんが風邪ひいちゃうよ。」 カズマの声が聞こえた。 そうか、私疲れてウトウトしちゃったんだ。 起きたいのに、ズッシリ重いまぶたが開かない。 ふわりとあたたかい何かが身体に乗せられて、いつものカズマの香りがした。 もう少し、眠りたい…。 ハッと目を開けて、ソファに横になっていることに驚く。 カズマのジャケットが掛けられていて、その上にも毛布が2枚。 足元のソファに寄りかかっているカズマは、真剣な表情でパソコンを見つめている。 パソコンの回りには、雑誌やメモや髪型のイラストが散らばっている。 「あ、ハナちゃんおはよ。」 「ごめん、寝てた…。」 「昨日ゆっくり寝れなかったんじゃない? あと、家中キレイになってる。 ありがとね。 疲れたでしょ?」 「病院は?」 「薬もらってきたよ。 で、裏口から店に入り込んで、メール確認して、帰ってきた。」 「見つかって怒られなかった?」 「マスクして眼鏡して、事務所に入れたと思った瞬間、店長が目の前に…。」 「え?」 「あらなにか、ネズミでも迷いこんだのかしら? 用事があるなら、早く済ませて出ていってくれないかしら? って、無茶苦茶な小芝居してくれたよ。」 「ふふふ。 優しいね?」 「いやいや、油断できない。 オレが事務所出た途端、虫が出たから消毒しなきゃって声が聞こえたよ。」 「そうなの?」 「一応、明日も休めってメールが来た。 さっきまで目の前にいたのに。」 苦笑いしている。 「なのに、休まないでなにしてるの?」 「…これは、お客さんのリクエストの提案と言うか。」 責められると思ったのか、なんとなくモゴモゴと説明をしながら、雑誌や紙をまとめ始めた。 「あれ?お風呂入った?」 ふわりと石けんの香りがする。 「温まりたいし、さっぱりしたくて、入っちゃった。」
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