第8章

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「じゃ、雑炊作りますか。 カズマは寝てろよ。」 「そうそう、仕事しちゃダメだよ?」 「はいはい。」 そう言いながら、きっとまた仕事のことを考えているんだろうけど。 ため息混じりに、微笑んでしまう。 翔太と一緒に台所で雑炊を作る。 私は詳しくわからないけれど、調理師の免許は、どうやら筆記試験だけじゃなくて、飲食店に勤めている経験も必要らしい。 少しずつ年を重ねながら、経験も知識も増えているとは思っていたけれど、案外そうでもないのかな。 世の中には、知らないことがたくさんある。 知ったつもりになっていないで、向き合ってみるのも大切だな。 「カズマ、明日も休み?」 「そうみたい。 でも、午前中お店に寄ってきたみたいだけど。」 「そうなんだ。」 カズマがお母さんに出くわしたことを話す。 「バカだな…。」 「ねー。」 「厳しいとこは厳しいけど、カズマん家みんな仲いいから。」 「翔太のところも、仲良さそうだよ?」 「あ、ハナさんはお兄さんと仲良いし?」 「…いいのかなぁ。」 「いいんじゃない?」 「そうかなぁ?」 過保護も仕方ないとしても、私の年齢も考慮してくれないと、困るんだけどなぁ。 けど、話を聞いてくれるようになったのは、大きな前進か。 翔太もこれから忙しくなってしまうだろうから、旅行は無理そう。 わかっているつもりだったけど、ちょっと楽しそうなんて思ってしまったから、残念かな。 雑炊を作った土鍋と、煮魚とポテトサラダも居間のテーブルへ運ぶ。 いただきますと手を合わせた。 「お魚おいしい!」 「よかった。」 「雑炊もおいしいね。」 「うん。」 3人で食べながら、やっぱりこたつを買おうかと盛り上がる。 「大将のお店の小上がりに、こたつがあればいいなぁ。」 「ハナちゃん、それいいね!」 「へ?」 「提案してみよっかな。」 カズマが嬉しそうに笑った。
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