第9章

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カズマが風邪を引いて、のんびり過ごしたあの日が幻のように思える。 怒濤の12月がやってきた。 洋菓子店にとって、クリスマスは大勝負。 ひとつでも多くのケーキを売りたい。 今年も例年通り、生クリームたっぷりのイチゴのケーキと、ちょっぴりビターなチョコケーキの2種類が、クリスマス限定商品で、予約を受け付けている。 お店はもちろん、駅前でも特設受付場所を設けて、出張予約をしている。 一昨年くらいから、特設受付の担当のようにされてはいたけれど、とうとう今年は責任者という立場になってしまった。 「クリスマスケーキの予約を受け付けてまーす!」 寒空の下、制服にコートは羽織っているものの、とにかく寒い! カイロを貼ったり、極厚タイツを重ね履きしていても、すぐに身体が小刻みに震える。 「一華先輩、去年より予約件数増えてますよ!」 今日の分の予約を確認しながら、まみちゃんが言う。 「ホント?」 「コレのおかげもあると思います!」 嬉しそうに、カゴから袋をひとつ持ち上げる。 マフラーを巻いた雪だるまのかたちのクッキーだ。 私の手のひらくらいの大きさで、クリスマスツリーのオーナメントにできるようになっている。 ここで予約してくれたお客様に、限定で配っている。 「これ、可愛いし、おいしいですよね。」 「…確かに。」 試食で食べたら、すごくおいしかった。 「一華先輩は、クリスマスは彼氏さんとパーティーですか?」 「ははは、まさか。」 テレ隠しではない。 今はまだ予約の段階だから、落ち着いていられるものの、予約の引き渡しになれば、余裕なんてない。 ケーキを予約してくれるお客様の大半は、ご家族のお客様だから、イブとかクリスマスも考慮しつつ、曜日にも左右される。 今年は祝日から始まり、イブが土曜日、クリスマスが日曜日だから、もう予測がつかない。
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