第9章

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あとは、丈がふくらはぎのあたりまで届くから、スカートよりもずっと長くて足も寒くない。 「ど、どうしたの?これ?」 「チラシ配りの時に着てたやつ。 洗ってあるから、臭くないと思うけど。」 だけど、私だけ温かいわけには、 そう思って隣を見ると、遅れて到着した野村くんが、まみちゃんにもベンチコートを差し出している。 「かりて大丈夫なの?」 「うん。 別に店の名前とかも入ってないし。 汚れても誰も困らないから、気にしないで使って!」 「ありがとう。」 「ありがとうございます! めちゃくちゃ温かいですね。」 まみちゃんも嬉しそうで、良かった。 「それじゃ、今度こそホントに戻るね。」 「うん、ありがとね。」 「ハナちゃんもがんばって!」 ヒラリと手を振って、走り去っていった。 ほんのり、カズマの匂いがする。 「一華先輩、カズマさんほんっとに優しいですね。」 「そ、そうだね。」 「さぁて、私たちももうひとがんばりしますか!」 「うん!」 まみちゃんは、すごくしっかりしていて、つい頼りそうになってしまう。 先輩だんだから、しっかりしなきゃ。 それに今年は責任者なんだし。 事務職への話は、前向きに検討してくれると言ってもらえたものの、今は一旦保留になっている。 ミユキもいずれ辞めるというだけで、今すぐにどうこうするわけじゃない。 事務職はもちろん魅力的でもあるけれど、仕事内容は今とは全然違うから、大変だろうこともわかっている。 それに、ミユキがいなくなってしまうのは、心細くなりそうだし寂しいから、少しでも先のことになればいいなんて、思ってしまう。 休憩で一旦交代してもらって、休憩を終えるとまた外に戻るけれど、カズマの貸してくれたベンチコートがものすごく温かくて、外にいるのも怖くない。 私こんなに単純だったかな。
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