第9章

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「ハナさん、お餅はいくつ食べる?」 「ふたつ!」 「了解。」 台所にいる翔太の隣に立つ。 湯気がのぼるお鍋からは、しょうゆのおつゆのいい香りが漂う。 コンロにのせた焼き網の上で、お餅が香ばしい匂いをさせながら、ぷわーっとふくれる。 「幸せなお正月だ。」 「えー?」 「翔太はおうちに顔出さなくていいの?」 「あとでちょっと行こうかと思うけど。 ハナさんも、一緒に行く?」 「えええ? そんなご迷惑なこと、できないよ。」 「迷惑じゃないって。 親戚とか来たりするわけじゃないから、賑わってないよ。」 話ながら、焼けたお餅をお椀へ入れて、おつゆを注ぐ。 赤と白のなるとが見えた。 お椀をお盆に乗せて運ぶ後ろを、追いかける。 「はい、箸。」 「ありがと。」 お椀の中をのぞくと、お花の形に切ったニンジンも入っている。 「いただきます。」 「いただきます。」 手を合わせて、箸を掴む。 「おいしい~!」 「お口に合って良かった。」 「なんか、ホッとする。」 「そ? 雑煮って地域によっても色々違うみたいだけど、家庭によって全然違うから。」 「そうみたいだよね。 うちもこんな感じだよ?」 「そうなんだ。 そういえば、ハナさんは実家に行かなくていいの?」 「…あ。」 すっかり忘れてた。 「行ってきたらいいんじゃない? 送ろうか? 軽トラだけど。」 「ありがとう。 翔太も実家でのんびりしておいでよ? 私も顔くらい出してこようかな。」 「夜ご飯は実家で食べる? うちで食べる?」 うちで食べるとなると、自分で用意するっていっても、翔太も気をつかうかな。 「実家でなにか食べてくるよ。 カズマは遅いのかな?」 「どうだろう。 あ、帰り暗くなるから、駅まで迎えに行くから連絡して?」 「大丈夫だよ。」 「ダメだって。」
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