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仕事帰りだって、だいぶ暗いから慣れているけれど、ここで‘うん’って言わないと、翔太は納得してくれなさそうかも。
心配してもらえるって、幸せだなぁ。
こういう時には、素直に甘えてしまおう。
「ありがと。」
「行くとき、途中まで一緒に行こうか。」
「駅と逆だよ?」
「知ってるよ。」
翔太は笑いながら答える。
お雑煮を食べ終えて、出掛ける準備をしながら、一応お兄ちゃんにメールを送る。
‘実家行くけど、お兄ちゃんも行かない?’
忙しいかもしれないし、寝ているかもしれないし、もしかしたらスルーされるかもしれないと思っていたのに、すぐに着信が鳴る。
「もしもし?一華?
あけましておめでとう。」
「おめでとう。」
「一華が行くなら、おれも行こうかな。
迎えに行くから。どこにいる?」
「家にいるよ。」
「そうか、じゃあ着いたら連絡する。」
「わかった。ありがとう。」
通話を終えて、支度も終えてから、バッグとコートを持って居間へ向かう。
そういえば、バッグもコートもお兄ちゃんが買ってくれたものだから、きっと喜ぶな。
「翔太、お兄ちゃんが迎えに来てくれることになったぁ。」
階段を降りながらそう言うと、玄関に翔太の背中が見えて、その奥には…。
「ユキちゃん?」
翔太の腕を掴む、ユキちゃんがいた。
邪魔しては悪いかと思ったものの、翔太はだんまりで、ユキちゃんは泣いている。
玄関の扉は開け放したままで、外から冷たい空気が流れ込む。
「あのさ、入ってもらったら?」
声をかけると、翔太が振り向く。
「いや、話は終わったから。」
「翔太くんっ!」
ユキちゃんの、悲しげなすがるような声が響く。
「とりあえず、送るから。
上着とってくる。」
淡々とそう言うと、翔太が部屋へ向かった。
「お騒がせして、すみません。」
ユキちゃんが頭を下げた。
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