第9章

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「大丈夫?」 バッグから慌ててハンカチを取り出して、差し出す。 ユキちゃんは一瞬ためらったものの、溢れてきた涙をこらえきれずに、ハンカチを受け取って涙を押さえた。 すぐに階段を降りてきた翔太に、 「私、お兄ちゃんが迎えに来てくれるから、帰りも送ってもらうよ。 だから、気にしないでね?」 「わかった。 よろしく伝えておいて?」 「うん。」 翔太はユキちゃんの横をすり抜けるように、先に外に出た。 ユキちゃんはハンカチで顔を押さえたまま、頭を下げると、翔太の後ろを追いかけていった。 なにかあったのは確実だけど…。 聞けない。 でも、心配だなぁ。 カラカラと、戸を閉めて居間のソファで、ボーッとしていると電話が鳴る。 外に響くエンジン音、きっとお兄ちゃんが来たな。 それにしても、早いな。 戸締まりをして、外に出る。 「一華、遅くなってごめん。」 わざわざ車から降りて、助手席側に回り込んで、ドアを開けてくれる。 「遅くないし、車乗れるから大丈夫だよ!」 「いいから、いいから。」 背中を押されて、座席に座る。 お兄ちゃんも運転席に戻ると、ゆっくり発車した。 「家にひとりだったのか?」 「カズマは朝から仕事で、翔太はさっき出掛けた。」 「そうか。」 「翔太がよろしくって言ってたよ。」 「ああ。」 「なにかおみやげでも買ってく? お店開いてるところあるかなぁ?」 「つまめそうなものと、酒はさっき買ってきたよ。」 「お兄ちゃん、さすが!」 「帰りも送るから。」 「お兄ちゃんは、飲まないの?」 「車で出る時点で、飲む気ないよ。」 「そっか。」 特別どうしてもお兄ちゃんと飲みたかったわけじゃないけど、そう言われると少し寂しいような。 家に着くと、お父さんとお兄ちゃんは相変わらず少しピリピリしていたけど、お酒を勧めるとお父さんは上機嫌になったから、ホッとする。
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