第9章

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「重…。」 家の前まで送ってもらって、紙袋をふたつ持つ。 帰りにはまたたくさんおみやげを持たされた。 お母さんの手料理はもちろん、ジュースとお菓子って。 まだまだ小さな子供だと思われているのが、呆れるようなうれしいような。 「運ぼうか?」 「大丈夫だよ。 送ってくれて、ありがとう。」 「いつでも連絡していいんだからな?」 「それじゃあ、タクシーみたいだよ。」 「一華の顔が見れるなら、タクシーでも…。」 「はいはい、おかしなこと言ってないで。 気を付けて帰ってね?」 紙袋を持った手は重かったけど、お兄ちゃんの背中をぐいぐい押して車に乗せた。 名残惜しそうに、ゆっくり車が出発した。 角を曲がるまで見送って、家に入る。 「あれ?」 鍵が開いてる。 玄関を開けて、中に入ると、居間に翔太がいた。 「ハナさん、おかえり。」 「ただいま…って、大丈夫?」 「なにが?」 「なにが、って…。」 紙袋をドンっと床に置いて、翔太の横に座る。 お酒は飲んでいるみたいだけど、特別泥酔しているわけでもなく、普通だ。 だから、大丈夫って聞く私がおかしいかもしれないけれど、表情が普通じゃない。 泣きそうな顔してる。 「そうだ、また色々持たされちゃったから、もし良かったら食べてね。」 袋からタッパーやら、お菓子を取り出す。 「あとは、冷蔵庫に入れておこうかな。」 立ち上がろうとした手を、キュッと掴まれた。 「…翔太?」 うつ向いたままだから、表情は見えない。 でも楽しい話じゃないことは、確実だと思う。 「わかんなくて、混乱してる。」 翔太が呟くように、話始めた。 私はそっと座って、耳を傾ける。 「ユキと結婚を保留にしてからは、俺の中ではずっと、半々だったんだ。」 「…半々?」 「ああ。 結婚するか、しないのか。」
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