第9章

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「…。」 「だから別れを選んだときも、こっちだったのかって、納得できた。」 「うん。」 「けど、ユキは…。 俺を想うって言いながら、他の男の子どもを身ごもったのに、俺とやり直したいって言うんだよ。」 「…え?」 頭と心がかけ離れたところにいるみたいで、居心地が悪い。 「妊娠した、って。」 「…翔太の子っていう可能性は?」 念のために、おそるおそる聞いてみる。 「ない。 別れてんのに、もしそういうことしてたら、別れた意味ないじゃん?」 「正論です…。」 そういうところも、すごく律儀だ。 「子ども産むなら、やっぱりこの街に帰りたい、帰るならやり直したいって。 なんだよ、それ。」 「…。」 「むちゃくちゃ勝手じゃん。」 「…。」 「それを拒否する俺は、冷たいのか…? だけど、ユキが子どもを産んで、その子もずっとこの街で見守らなきゃないのか…?」 「…翔太。」 「不幸になれなんて、思わない。 ユキも、子どもも幸せになって欲しい。」 「…。」 「だけど…。」 なんて言葉をかければいいのか、わからない。 もしかして、と、想像することに、なんの意味もないのかもしれない。 それでも、考えずにはいられない。 ユキちゃんが、この街に帰ると言えば、それまで翔太は待ったのかもしれない。 どうしても、帰りたくないと言われて、別れを決めたのに。 それを覆す形になってしまったことは、ものすごくやるせないだろうな。 別れを選んだことは後悔してなくても、すぐそばに生活を感じる距離にいることは、気にならないはずがない。 当人同士だけじゃなく、ユキちゃんの相手の人も、周りにいる人だって…。 腕を掴まれたままの手に、力がこもる。 「せめて、もう少し時間が経ってたら…。 ユキのことも、子どものことも、微笑ましく見守れたのに。」
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