第9章

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「…。」 「人として、むちゃくちゃ器小さいよな。」 そう言って、困ったように笑う瞳には、少しだけ涙がにじんでいる。 「翔太の器が小さかったら、他はみんなもう、おちょこだよ! 豆皿だよ!」 「…ぷ。 あははははは! 豆皿って、小さいね。」 「そうだよ!」 笑いながら、スルリと手を離してくれた。 「ユキが戻りたいなら、戻ればいい。 だけど、俺が哀れに見られたり、 ユキが批判されたりするのは、嫌だ。」 「…。」 「俺とユキがつき合ってたのは事実だけど、過去に終わったこと。 そのあとに、ユキが別の人とつき合うのは、悪いことではないだろ?」 「…うん。」 「だからもう、俺に出来ることはない。 魚買いに来たら、客として対応して売るけど?」 「…。」 「もー! ハナさんはそうやって、すぐ代わりに泣いてくれるから…。」 翔太は困ったように、でも優しく笑いながら、袖で私の涙を拭く。 「ご、ごめん。 服が…。」 「洗えばいいんだって。」 「ごめん。 泣きたいのは、翔太なのに。」 こらえようとしても、涙が止まらない。 「代わりに泣いてくれる人がいて、ありがたいなって思うよ。」 そう言う翔太の目にも、涙がうかぶ。 「で、でも。」 「一緒に心を痛めてくれて、ありがとう。」 「っ!」 ダメだ、もう涙が止まらない。 人の気持ちが変わることは、咎められない。 だけどこんな風に、傷を更に深く抉るようなことは、しないで欲しかった。 ユキちゃんにも、ユキちゃんの傷や痛みがあって、それでも欲しいと思ったのかもしれないけれど…。 ならば、どうしてもっと早く…と、思わずにはいられない。 無くしてから気づいても、2度とは戻らないものばかりなのに。 なぜ、無くしてからじゃないと、気づけないのだろう…。 「ただいま~…って、何事!?」
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