第9章

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玄関の音に全く気づかなかった。 カズマが慌てて、ティッシュをつかんで、私の鼻をかもうとしてくる。 「じ、自分でできる!」 「いいから、ほら!」 小さな子どもにするように、チーンとしなさいと言わんばかりの状況だ。 さすがにそんなのは、恥ずかしくて、ティッシュを奪い取る。 「すっげ、ご馳走。 オレも実家から、色々もらってきた。 先にシャワー入って来ようかな。」 そう言って、お風呂場へ向かった。 カズマのそういうところも、すごいと思う。 触れてほしくないことには、触れない。 だけど、放っておくわけじゃなくて、誰よりも気にかけているのはわかる。 「ハナさん、ごめんね。 ありがと。」 「ううん。」 私には、なにもできない。 「産まれてくる子どもに罪はない…。 つーか、誰にも罪なんてないけど。」 翔太がニカッと笑った。 「そうだね。」 私も笑顔を返す。 いつでも、突然現れる。 驚くような事実は、嬉しいことだけならいいのに、悲しいことも多くて、こちらの心の準備なんて全くお構いなしに暴れ回るんだ。 悪気なく、心を痛めつけて、去っていく。 反撃なんてもちろん、防御すらさせてくれない。 それでいて悪気がないってのが、余計質が悪い。 悪気がないことを、許せないこちらの方が、悪のようになってしまうこともある。 とはいえ、いつ現れるかわからない‘それ’の為に、四六時中怯えているわけにもいかない。 傷を癒して、また立ち上がるしか、進む方法はない。 …だけど、深い深い傷を負ったときには、ゆっくり休んで欲しいと思う。 心がまた、元気に動けるまで…。 「ハナちゃんと、翔太はビール飲むのか?」 シャワーを終えたカズマが、冷蔵庫の前で問いかけている。 私と翔太は一瞬顔を見合わせて、 「「いるっ!」」 「同時かいっ!」 「ぷ、」 「ふふふ。」
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