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玄関の音に全く気づかなかった。
カズマが慌てて、ティッシュをつかんで、私の鼻をかもうとしてくる。
「じ、自分でできる!」
「いいから、ほら!」
小さな子どもにするように、チーンとしなさいと言わんばかりの状況だ。
さすがにそんなのは、恥ずかしくて、ティッシュを奪い取る。
「すっげ、ご馳走。
オレも実家から、色々もらってきた。
先にシャワー入って来ようかな。」
そう言って、お風呂場へ向かった。
カズマのそういうところも、すごいと思う。
触れてほしくないことには、触れない。
だけど、放っておくわけじゃなくて、誰よりも気にかけているのはわかる。
「ハナさん、ごめんね。
ありがと。」
「ううん。」
私には、なにもできない。
「産まれてくる子どもに罪はない…。
つーか、誰にも罪なんてないけど。」
翔太がニカッと笑った。
「そうだね。」
私も笑顔を返す。
いつでも、突然現れる。
驚くような事実は、嬉しいことだけならいいのに、悲しいことも多くて、こちらの心の準備なんて全くお構いなしに暴れ回るんだ。
悪気なく、心を痛めつけて、去っていく。
反撃なんてもちろん、防御すらさせてくれない。
それでいて悪気がないってのが、余計質が悪い。
悪気がないことを、許せないこちらの方が、悪のようになってしまうこともある。
とはいえ、いつ現れるかわからない‘それ’の為に、四六時中怯えているわけにもいかない。
傷を癒して、また立ち上がるしか、進む方法はない。
…だけど、深い深い傷を負ったときには、ゆっくり休んで欲しいと思う。
心がまた、元気に動けるまで…。
「ハナちゃんと、翔太はビール飲むのか?」
シャワーを終えたカズマが、冷蔵庫の前で問いかけている。
私と翔太は一瞬顔を見合わせて、
「「いるっ!」」
「同時かいっ!」
「ぷ、」
「ふふふ。」
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