第9章

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「なんにも思いつかないけど、なんかしてやりたいと思うだろ。」 「そうだな。」 声をひそめるわけでもないから、いつもと同じボリュームで響く。 聞いてはいけなかったのかもしれない。 向こうからそっと回りこんで、階段を上がろうかと思ったのに。 「ハナちゃん、早くこっちおいで。」 振り向きもせずに、カズマが言う。 「あ、あの、これは…。」 盗み聞きするつもりじゃなくて、 「出てきた戸の音、聞こえてたよ。」 翔太まで! 「…ごめん。」 「なんで謝るの? あ、ハナちゃんは知らなかったよね? レンさんって、姉ちゃんのことずっと好きみたい。」 「!?」 ハロウィンの打ち上げの時に、翔太がレンさんに、カズマのお姉さんのことを話してはいたけれど。 「あの暴君の、なにがいいのかはわかんないけど。」 「暴君って。」 「けどそれがなかったら、カズマはハナさんに出会ってないだろ?」 「それは、そうだけど…。」 珍しくカズマが恥ずかしそうに目をそらす。 甥っ子が産まれたときに、ゴタゴタしていて、お祝いしてあげたくて、ケーキを買いに来たって言ってたなぁ。 よく考えると、不思議な出会い。 「私、もう1本ビール飲むけど、翔太とカズマはどうする?」 「オレも飲む。」 「あ、俺も。」 「了解。」 台所へ向かうと、カズマが後ろからついてくる。 「ハナちゃん、髪の毛乾かそ? 風邪引くよ。」 返事なんて聞く気がないのか、そのまま洗面所に置いてあるドライヤーを取りに行ってしまった。 冷蔵庫からビールを持って、居間に戻ると、カズマは私の後ろに回り、ドライヤーのスイッチを入れる。 「ありがと。」 見上げて言うと、カズマは照れたように微笑んだ。 髪の毛を乾かし終えてから、ゴクリとビールを飲む。 「子どもに罪はないのに…。」 「?」 「?」
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