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「代わりに吐き出してくれて、ありがと。」
翔太がそう口にしたとき、少しだけカズマの腕に力がこもったような気がした。
「確かに、思った。
思わないようにしてたけど、思ったよ。
’なんで’って。」
「翔太…。」
「けど、それ言っちゃったら、俺は被害者みたいで、ユキが加害者みたいじゃん?
違うのに。」
「…。」
「俺に足りないところがあったから、別れるって結果になっただけで。
俺にも非があるのに、ユキだけが悪いって思われるのは、違うと思う。」
「そりゃ、人が多い街だったら、まわりは知らない人だらけで、そんな些細なことは当人同士か、その周りしか知らないことだけど。」
「人との関わりが多いってことは、いいことばかりじゃないから。」
カズマが口を開く。
「それでなくても、翔太はもちろん、森内さんだって店やってて。
人との関わりで、商売が成り立ってる。」
「うん。」
「人の感情って、善意だけじゃないからさ。」
カズマは少し寂しそうに呟いた。
その言葉が、心にズキリと刺さる。
「それに、当事者以外の方が、案外簡単に人を傷つけることもあるから。」
「…。」
それは、わかる。
根拠なんてなくても、心が乾いているほどに、人の噂に飛び付く。
そして、バトンのように受け渡していく。
「ハナさんが代わりに吐き出してくれて、泣いてくれたら、もう俺はスッキリ?」
翔太は笑う。
「ツラい思いさせて、ごめんね。」
「そんなことなくて、ホントは、翔太が…。」
翔太が泣かなきゃいけないのに。
…いや、きっともう泣いたんだと思う。
「自分のことみたいに思ってくれる人がいてくれて、嬉しいよ。」
「思うよ…。」
「ありがとう。
けど、年明け早々すげぇ疲れたから、寝るわ。」
翔太は、ううんと伸びをして立ち上がる。
「オヤスミ。」
「おやすみ。」
「おう。」
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