第9章

29/51
前へ
/670ページ
次へ
「代わりに吐き出してくれて、ありがと。」 翔太がそう口にしたとき、少しだけカズマの腕に力がこもったような気がした。 「確かに、思った。 思わないようにしてたけど、思ったよ。 ’なんで’って。」 「翔太…。」 「けど、それ言っちゃったら、俺は被害者みたいで、ユキが加害者みたいじゃん? 違うのに。」 「…。」 「俺に足りないところがあったから、別れるって結果になっただけで。 俺にも非があるのに、ユキだけが悪いって思われるのは、違うと思う。」 「そりゃ、人が多い街だったら、まわりは知らない人だらけで、そんな些細なことは当人同士か、その周りしか知らないことだけど。」 「人との関わりが多いってことは、いいことばかりじゃないから。」 カズマが口を開く。 「それでなくても、翔太はもちろん、森内さんだって店やってて。 人との関わりで、商売が成り立ってる。」 「うん。」 「人の感情って、善意だけじゃないからさ。」 カズマは少し寂しそうに呟いた。 その言葉が、心にズキリと刺さる。 「それに、当事者以外の方が、案外簡単に人を傷つけることもあるから。」 「…。」 それは、わかる。 根拠なんてなくても、心が乾いているほどに、人の噂に飛び付く。 そして、バトンのように受け渡していく。 「ハナさんが代わりに吐き出してくれて、泣いてくれたら、もう俺はスッキリ?」 翔太は笑う。 「ツラい思いさせて、ごめんね。」 「そんなことなくて、ホントは、翔太が…。」 翔太が泣かなきゃいけないのに。 …いや、きっともう泣いたんだと思う。 「自分のことみたいに思ってくれる人がいてくれて、嬉しいよ。」 「思うよ…。」 「ありがとう。 けど、年明け早々すげぇ疲れたから、寝るわ。」 翔太は、ううんと伸びをして立ち上がる。 「オヤスミ。」 「おやすみ。」 「おう。」
/670ページ

最初のコメントを投稿しよう!

514人が本棚に入れています
本棚に追加