第9章

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ササッとテーブルの上を片付けて、洗面所で歯磨きをして、2階へと上がっていった。 「…ハナちゃん。」 ずっと背中にカズマの温もりを感じている。 「ん?」 「この街は、そういうこともある…って、ショックだよね?」 顔は見えないけれど、不安そうなことは声でわかる。 「カズマ。」 「ん?」 「そういうことって、どこの街でも起こりうることじゃない?」 「…え?」 「そういうことにばかり気をとられてたら、もったいないよ。 優しい人だって、噂になんて惑わされない人だって、たくさんいると思う。」 「ハナちゃん。」 「なにがあっても、カズマと翔太が、一生懸命がんばってるってわかってくれる人は、たくさんいるよ。 だから、大丈夫。」 「っ!」 カズマにぎゅっと抱きしめられて、肩に乗カズマのおでこの重みを感じる。 ふと、肩が少し濡れていたように思ったけれど、気づかないフリをした。 「ユキちゃんも、きっと不安で間違えちゃっただけだよね。 翔太もユキちゃんが傷つくことなんて望んでない。 それに、私もユキちゃんのこと嫌いにはなれないと思う。」 「うん。」 「森内さんもすごく優しい人だもんね。」 「うん。」 「まだまだ知らないことばかりだけど、それでも私はこの街好きだよ。」 「うん。」 私が苦しい時に、そっと’そこ’にいて微笑んでいてくれた、そんな場所だから。 カズマが大切にしている場所だから。 私も大切にしたいと思う。 「あ、カズマ今日も忙しかったんでしょ? 明日も早いの?」 「明日も今日と同じかなぁ。」 「それじゃあ、早く休まないと。」 「うん。 ハナちゃんは次の休みいつ?」 「あれ?いつだっけ? そこのカレンダーに書いてなかった?」 「今年のカレンダー、まだ買ってないじゃん。」 「そっか、そうだね。」
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