第9章

32/51
前へ
/670ページ
次へ
「昔から、お兄ちゃんの仕事のことって聞いたことがなくて。 ただ転職は多いし、離婚も多くて…。 適当な人だと思ってた。」 「そうなの?」 「うん。 金銭感覚もちょっとおかしくなっちゃってて、この前偶然会ったときも、断ったのに寒そうだからってコート買ってくれて、その後にも急にバッグ買いたいって、駅前のデパートの並びにあるお店に入っちゃうから、焦ったよ。」 「あ、あのまあるいバッグ?」 「そう。 可愛くて、つい使っちゃうんだけど。」 「ハナちゃんに似合うなぁって思ってたよ。」 「ありがと。 ついでに、お揃いのストラップまで…。」 「それは彰人さんに自慢された。」 「えええ?」 苦笑いしてる。 「ごめんね。」 「え?」 「ハナちゃんと一緒にいられて、それだけでめちゃくちゃ嬉しくて。 だけど、オレ自分のことばっかりで、ごめんね。」 「な、なに言ってるの!」 「?」 「カズマは周りのことばっかりで、もっと自分のこと考えてくれたら…って思ってるよ?」 「え?」 「だから、気にしなくていいんだよ。」 「ハナちゃん。」 「カズマと一緒にいられて、楽しいよ?」 「…ありがと。」 ぬくもりが、幸せだ。 離れると少しさみしいけれど、心はいつでも温かいから大丈夫。 変えれる場所があるから、がんばれるんだ。 「旅行、どこに行きたいか考えておいて?」 「うん。」 「さぁて、オレらも寝ようか。 明日も仕事がんばるぞー。」 「あはは、そうだね。」 カズマの身体が離れてしまったのが、名残惜しかった…なんて言えないけど。 片付けをして、寝る準備をして…一緒に階段をのぼって、部屋の前。 「おやすみ。」 そう言うけれど、一緒にいたいな。 「おやすみ。」 ニコニコしながらそう言うカズマの服の裾を掴む。 「ハナちゃん?」 「…。」
/670ページ

最初のコメントを投稿しよう!

514人が本棚に入れています
本棚に追加