第9章

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どうしよう、恥ずかしくなってきた。 裾を離そうとした瞬間、その手をそっと掴まれた。 「一緒に寝よっか。」 照れたような困ったような表情でカズマが言う。 「うん。」 布団を運ぼうかと言いかけた時には、風にさらわれるように、引き寄せられてカズマの部屋に入っていた。 倒れこむように布団に横になる。 カズマの大きな手のひらに、頭の後ろを支えられているから、怖くない。 「ハナちゃんが可愛すぎて困る。」 耳元でカズマが囁く。 「おやすみ。」 「おやすみ。」 優しく抱きしめられて、眠りにおちた。 枕元に置いてあるアラームが鳴る。 カズマがセットしてくれたんだろうな。 当の本人は、きっととっくに仕事へ行ってしまったんだろう。 布団に残された温もりに、もう少し包まれていたいけれど、私も仕事へ行かなきゃ。 ノロノロ起き上がって、布団を片づける。 カズマの部屋を出たところで、バッタリ翔太に出くわした。 「お、おはよ。」 「おはよー、やだやだ、バカップル。」 「ち、ちがうから。」 「はいはい。」 先に階段を降りていった。 なんかめちゃくちゃ恥ずかしい。 部屋で着替えをしてから、洗面所へ向かう。 顔を洗い終えて、台所を通ると翔太がお餅を焼いている。 「雑煮も残ってるけど、磯辺もちとかきなこもちにもできるよ?」 「きなこもち食べたい!」 「了解。 支度しておいで?」 「…翔太おやすみなのに、わざわざ起きてくれたの?」 「二度寝するけどね。」 「…ありがとう。」 「どういたしまして。」 チラリと視線をこちらへ向けた。 優しくしてくれる、大切な人たちに、私はなにをお返し出来るのかな。 翔太が作ってくれたきなこもちを食べて、仕事へ向かう。 お店も工場も1日だけのお休みだったとはいえ、準備に追われる。
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