第9章

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「張ってないし!」 お店の戸が開く。 「いらっしゃい。」 大将の声が聞こえて、チラリとそっちを向くと、 「一華!」 「お兄ちゃん!」 昨日の今日で、そしてここで会うとは。 「お、妹。」 レンさんの姿が見えて、私がドキリとしてしまった。 「こ、こんばんは。」 頭を下げつつ、気になることといえば…。 「涼子、うるさい。 外まで声聞こえてんぞ。」 レンさんは苦笑いしながらそう言って、カウンターに座った。 「う、うるさいな。 さぁて、リョウお風呂入ろっか!」 涼子さんは亮太郎くんを抱き上げた。 「ハナちゃんありがとう。 ゆっくりしていってね。」 そう言って微笑むと、家へ入っていった。 微笑んだ顔がキレイで可愛くて、ドキドキしてしまった。 「一華、ご飯食べたのか?」 当たり前みたいな流れで、お兄ちゃんは私の向かいに座る。 「な、なんでこっち?」 レンさんはカウンターにいるのに。 「一華最優先に決まってるだろ?」 決まってないし…。 とは思ったけれど、そんなことを言ってもなにも変わらないだろうけど。 それにしても、涼子さんはキレイな人だけど、母の強さとか優しさみたいなのがにじみ出てて、魅力が増してる。 「お母さん、か。」 「ん?」 「子ども、いいね。」 思わずそう呟いてから、急変するお兄ちゃんの表情を見て、間違えたと気づく。 「!??」 「ち、違うからね?」 そう言っても、きっともう遅い。 落ち着くまで適当に…。 「ただいまー!」 なんてタイミングだろう。 店の戸が開いて、カズマが帰ってきた。 大将が、 「ったく、うちの子どもたちは…。」 困ったように、でも少し嬉しそうにも見える。 「一華!!!」 お兄ちゃんが焦って私の肩を掴んで揺らす。 「早とちりだからぁ!」 「彰人さん、こんばんは。」
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