第9章

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「お姉ちゃん、ありがと!」 亮太郎くんはそう言って、家に戻ろうと振り返った、その時。 「ぱぱ?」 小さな小さな声で、そう呟いた。 「!?」 その視線の先には、カウンターに座る後ろ姿。 「リョウ、冷えるから早く布団入れ。」 カズマが亮太郎くんを抱き上げて、連れていく。 …ぱぱ? わからないけれど、不安のような緊張のような、不思議な気持ちに包まれる。 「ハナさん、日本酒…って、なんかあった?」 「翔太、なんでもないよ!」 野次馬根性なんかで、聞けることじゃない。 「後片付けは手伝うけど、今日はおしまい。」 「そっか。お疲れさま。」 乾杯して口に含んだ冷たいお酒が、ふわりと甘く鼻に抜ける。 翔太が言っていた。 レンさんの気持ち。 亮太郎くんが生まれる頃に、なにかがあったこと。 きっと、他人の私が興味本意で首を突っ込んではいけないこと。 それはわかっているけれど、気になってしまう。 「ハナさん、仕事疲れた?」 「ううん、そういえばミユキが福引き当たったんだって!」 「すごいね。」 「ね! 温泉旅行らしいんだけど、一緒に行こうって誘ってくれたの。」 「良かったね。」 「うん、楽しみ!」 「えー?なになに?」 カズマは氷がたっぷりの焼酎のジョッキを片手に、隣に座る。 「ミユキさんと温泉行くんだって。」 「まさか、先越されるとは!」 カズマが笑う。 「お正月だったら、翔太休みだったんだ!」 「え?」 今さら気づくなんて、遅すぎた。 あ、でも翔太は休みだけどカズマも私も仕事休めないか。 大人になると、3人の休みを合わせることも難しすぎる。 と、いうか、2人でも合わない時は合わないか。 「ミユキと温泉なんて、久しぶりすぎるから、楽しみだなぁ。」 考えただけで、わくわくしてしまう。
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