第9章

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週末が近づいた頃。 いつものように仕事を終えて、大将の店へ向かう。 翔太は休みも終わって、魚やさんと居酒屋の手伝いで忙しそうに過ごしている。 カズマは、美容室の仕事は通常に戻ったとはいえ、通常が忙しいから大変だ。 そして更に試験へ向けての追い込みもしているみたい。 自分でまとめたらしい、小さなノートをズボンのポケットに押し込んで、仕事をしながらブツブツなにか呟いている。 「カズマ、私明日休みだよ。」 「ほんと? たぶん早番で終われるから、カレンダー選びに行こう。」 「うん。」 ビールを運んできた翔太が、 「カレンダーなら、ここにもうちにも、残ってるけど?」 意地悪な表情で言う。 「気に入ったのがなかったら、あきらめて使うけど。」 カズマは不満そう。 ふくらんだ頬を、指で軽くつつく。 「駅前とかデパートのあたり見てるから、仕事終わったら連絡ちょうだい?」 「わかった。」 街中はまだまだセール中らしいから、たまにはウインドウショッピングってやつでもしようか。 旅行用に新しい下着でも見てこようかな。 って!! ミユキとの旅行だから。 カズマじゃないから。 そういうのじゃないから。 自分で自分にツッコミを入れたくなる。 落ち着け、私。 ついでに本屋さんで、図鑑も見てこようかな。 亮太郎くんに…。 いや、急にプレゼントなんてされたら迷惑かな。 それに、誕生日にカズマがくれた図鑑だから、大切にしているのかもしれない。 考えすぎると、身動きが取りにくくなる。 楽しさに浮かれすぎて、周りが見えなくなっちゃダメだな。 「ハナちゃん?寝てるのー?」 「起きてるよ!」 「眉間にシワ。」 「だから、シワとか言わないでってば。」 眉間を指で優しく撫でられた。 カズマがふわりと微笑む。 可愛いな、バカ。
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