第9章

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次の日、洗濯機を回しながら、掃除でもしようかと思ったのに、どこもかしこもピッカピカだ。 休み中に翔太が掃除してくれたんだろうな。 「ほんと、いい奥さんになれるのになぁ。」 なんて呟きながら、せめて玄関でも掃こうとホウキを片手に戸を開けた。 「わ!」 「!!」 玄関に人が立っていて驚いた。 立っていた人物も、私の声に驚いて顔を上げた。 「ユキちゃん!?」 「急にすみません…。」 深々と頭を下げた。 「ど、どうしたの?」 もちろん、翔太は仕事だ。 きっとそんなことはわかっているだろうから、翔太に用事があるなら、店へ向かうだろう。 「あの、お時間ありますか?」 「うん。」 そう答えたけれど、家に上がってもらうのは、どうなんだろう。 迷いつつ、思考を巡らせる。 「駅前の喫茶店、そこで待っててもらえないかな? 私、支度してくるから。」 この寒空の下で待たせるには、身体が心配だ。 「ありがとうございます。 わかりました。」 「すぐ追いかけるから。」 「はい、待ってます。」 ユキちゃんはもう一度頭を下げて、小さく微笑んだ。 部屋に戻って慌てて支度をする。 ふと、洗濯機が回り終えたことを知らせる音が聞こえる。 やむおえない…。 急いで洗濯物も干してから、小走りで駅前へと向かう。 喫茶店に入ると、窓際の席にポツンと座るユキちゃんをすぐに見つけた。 「遅くなってごめんね。」 「こちらこそ、急にごめんなさい。」 店員さんにカフェオレを注文した。 「この前は、ご迷惑おかけしました。 ハンカチ、汚してしまって…。」 スッと、小さな包みを差し出された。 「?」 「洗ったんですが、それをお返しするのも申し訳なくて…。 もし良かったら、受け取って下さい。」 洗ったハンカチの包みの隣に、新品と思われる包みが並ぶ。
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