第9章

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そこからまた、進むしかないんだ。 ツラくなって、ずんずん進めなくて、ゆっくりになったり、立ち止まったりすることも必要なことだと思う。 だけど、決して’戻れ’ない。 やり直すことは出来ても、’消す’ことはできない。 そう思うと、少しだけ怖くなる。 でも目指したい’光’は、見えにくくなることはあっても、きっと消えることはない。 だから、そこへ向かいたい…。 2杯目のワインも、チーズフォンデュもとってもおいしかった。 「カズマ、帰ろっか。」 「うん、帰ろう。」 お店を出て、どちらからともなく、そっと手をつなぐ。 「ハナちゃんの手、冷たい。」 「カズマの手は温かいね。」 「うん、いつでも温めてあげるよ。」 「ありがと。」 自分は必死で幸せへ向かっているはずなのに、他人から見れば、遠回りをしているように思うこともある。 だけど、必ずしも遠回りが悪いわけじゃないと思う。 遠回りしたからこそ、経験すること、気づくこと、得るものもたくさんある。 そうやってたどり着いたその時に、遠回りこそが、自分にとっての近道だったと思いたい。 そうじゃなきゃ、ケイトくんと幸せになれると信じていた頃の私も、報われない…。 間違いも恥ずかしさも、無しにしちゃいたいけど。 ’もし’ケイトくんとつき合っていなかったら、カズマのこともよく知らなかったままだったかもしれない。 カズマに会えなくなるのが嫌だと、あんなに強く思わなかったかもしれない。 誰かの為に、苦手なことをがんばってみよう、そんな自分にも出会えなかったかもしれない。 苦手なことは、がんばってみても、やっぱり苦手だったけど、がんばれる自分に少し自信は持てた…かな? 「カズマ、ビール買って帰ろうか?」 「そうだね。」 「翔太も早く帰ってくるといいね。」 「えー、それはどっちでもいいや。」 「ひどっ!」 顔を見合わせて、笑う。
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