第1章

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「へー…。」 「友だちとか、知り合いはどんどん増えるけど、別になにか楽しいことがあったわけじゃない。」 「そうなの?」 「家の手伝いなんて、面倒だとも思っててさ。 好きなことしたいって思ってたのに、いざ自由になったと思ったら、なんもなかった。」 「…。」 「だけど、親に謝るなんてしたくないとか、家の手伝いはカッコつかないとか、ちっさいことばっか気にしてた。」 「…なにがきっかけで、変わったの?」 「うーん、甥が生まれた時に色々あってさ。 大切な人を守りたいと思った時に、そのチカラがないのは嫌だと思ったんだ。」 「…。」 「母親の店の掃除はよく手伝ってたし、興味もあったから美容師の学校に行かせてもらって、今に至るわけだけど。 居酒屋も好きなんだよね。」 「いつも手伝ってるもんね。」 「うん。 美容室で、キレイにしてもらえたって、喜ばれるのも嬉しいけど、こっちでオレの作ったご飯を喜んで食べてもらえるのも、すげぇ嬉しい。」 「カズマのご飯、おいしいもん。 人を喜ばせるのが好きなんだね。」 「あはは、そうかも。」 「カズマはホント、優しいね。」 「そうだといいけど。 …ねぇ、ハナちゃん。」 「んー?」 カズマの声が心地よく響いて、瞼が重くなる。 お腹がいっぱいになったとか、ホッとしたとか、色んな気持ちが重なって…ちょっと疲れた。 「ハナちゃん、おやすみ。」 遠くでカズマの声が聞こえた気がした。 心も身体もポカポカ温かくて、久しぶりに深く深く眠りに落ちた。 ハッと目が覚める。 アラームは鳴った!? 今は何時? 慌てて手探りで目覚まし時計を探す。 …時計は見つからないし、天井がいつもと違う。 ぼんやりした頭で、昨日のことを思い出す。 昨日!? ガバッと起き上がる。 ここ、カズマの家だ。 いつの間に寝ちゃったのだろう。
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