第10章

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着替えて戻ると、ほかほかの肉じゃがが器に盛られている。 「おいしそう~。」 「食べよ。」 「うん!」 ほくほくのおいもに、味が染みていておいしい。 「ハナちゃんは仕事忙しいんでしょ?」 「うん。 でもカズマも忙しいんだよね?」 「バレンタイン前は、気合い入る女の子も多いからね。」 身だしなみを整えようと思った時に、まずは髪の毛って思うからなぁ。 「…去年、たっくさんチョコもらったの?」 気になるわけじゃないけど、気にならないわけでもない。 「あー…うん。」 「そっか。」 事実確認をしてどうするんだろうと、自分で自分がわからない。 「試験、がんばってね。」 「ありがと。」 うやむやになってしまった。 去年はそういう間柄じゃなかったし、そんなこと気にしても仕方ないのに。 私、変。 カズマの試験のことも気になったけれど、カズマはカズマで忙しいらしく、それから、バレンタインまでは、すれ違いの日が続いた。 寒さと忙しさも重なって、体調を崩してしまった子の、お休みのフォローと、いつもよりラッピングも増える。 バレンタイン前に忙しさが落ち着くお店もあるみたいだけど、うちは駆け込みのようなお客様が増える。 買い忘れていただけか、今日やっぱり想いを伝えるためにチョコを渡そうと決意して、慌てて来られたのか、それはわからないけれど。 「やっぱり今年も売り切れちゃいましたね。」 まみちゃんが、プライスを片付けながら言う。 あのスーツの男の子、早めに買っておいて良かった。 …渡せたのかなぁ? ふと、思い出す。 「そうだね。」 「で、一華先輩はカズマさんにはなにをあげるんですか?」 「うーん。」 一応、チョコの詰め合わせは買ってある。 「チョコと一緒に、私を食べて、なんてしちゃえばいいじゃないですか。」 ニヤニヤしている。
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